川辺の石に息づく藻類をスケッチする新潟水の記憶プロジェクト

坂井晃一が取り組む新潟水の記憶プロジェクトは、新潟県内を流れる河川や用水路の水辺に残る微細な痕跡を、科学と美術の両面から記録する長期的な活動です。このプロジェクトでは水環境を映し出す指標として、川岸の石に付着した藻類を継続的にスケッチしてきました。水を媒体に育まれる生命の輪郭を、一枚一枚の絵の中に封じ込めていく作業です。

新潟は信濃川や阿賀野川をはじめ、数多くの河川が市内を縦横に流れる水の都です。水辺に集まる生物たちは水質や流速、季節によって姿を変え、その痕跡は見た目には地味ながらも豊かな生態系を物語っています。坂井が目を向ける藻類も、まさにそうした小さな記憶のかたまりにほかなりません。

石の表面を覆う緑色や褐色の薄い層は、見過ごせば単なる汚れとして片付けられてしまうでしょう。しかし拡大して観察すると、細胞が連なり群体を作る繊細な模様が見えてきます。坂井は顕微鏡と手描きのスケッチを併用し、丹念に描写を重ねてきました。スケッチ群は水の記憶を読み解くための原典として、プロジェクト全体の土台となっています。

河川の石に集まる藻類という存在

川岸の石に付く藻類には珪藻、緑藻、藍藻など多様な分類群があり、それぞれが水質や光の条件に応じて独特の群体構造を発達させます。坂井が現場で出会う石の一つひとつは、過去の水の流れ方や日光の当たり方を記録する天然の掲示板のような存在です。

これらの藻類は肉眼では同一の緑色の膜に見えても、ルーペや簡易顕微鏡で拡大すると精巧な模様が浮かび上がります。坂井は現場で短時間のうちに大まかな輪郭をスケッチし、帰宅後に精緻な描写を加えるという二段階の方法を採用しています。この姿勢によって、現場の臨場感と観察の精度を両立させています。

スケッチのための道具と手順

現地で携帯する道具は、観察用のルーペ、鉛筆、消しゴム、水を含んだ石を入れるための小さな容器、そして画用紙やスケッチブックです。濡れた石を直接画用紙に押し当てると、藻類の形や色が大まかに転写される手法も試行しています。

詳細なスケッチを行う段階では、顕微鏡写真を下地として用いながら、自らの手で細胞の形や配置を再描画していきます。写真では拾いきれない微妙な濃淡や群体の境界線が持つ柔らかさは、手を動かすことで初めて再現されます。坂井はプロジェクトの関連記録である 植物観察の現場記録 の中でも、この手仕事の工程を重視しています。

観察からスケッチまでの手順

  • 現地の川岸で対象とする石を選び、周辺の水質や地形をメモする
  • ルーペで大まかな藻類の分布を確認し、輪郭スケッチを起こす
  • 持ち帰った石を顕微鏡で観察し、詳細な細胞構造を描き込む
  • スケッチとともに観察年月日や天候、流量を記録する

季節が藻類の表情を変える

新潟の四季は藻類の色や密度に大きく影響し、春先は珪藻が増えて褐色の膜が石を覆い、夏から秋にかけて緑藻が旺盛に広がります。冬には藍藻の一部が休眠状態で石に留まり、表面にうっすらと灰色の痕跡を残します。

坂井はひとつの河川に対して年間を通じて複数回の観察を続け、季節ごとのスケッチを同一のファイルに蓄積しています。こうして並べられたスケッチ群は、まるで日記のように川の変化を語るようになります。観察を続けるうちに、年ごとの差異や河川の工事の影響なども見えてきます。

新潟の水辺を取り巻く環境

新潟市内には住宅地や商業地に隣接する中小河川が点在し、生活排水や道路の塵芥が流れ込む区間も少なくありません。そうした環境下で育つ藻類の種類構成は、都市化の指標として読み解くことができます。坂井は水質検査の専門家ではないものの、長年の観察で蓄積されたスケッチが地域の環境変化を相対的に示す資料になると考えています。

坂井は川の観察と並行して、商店街の通りや日常風景のなかから水の気配を探し出す 商店街のスケッチ活動 にも取り組んでいます。こうした街角の活動と河川での観察を往来することで、水環境が暮らしと分断せずにつながっているという視点が得られます。

水辺調査で留意している点

  • 住宅地に近い小河川での生活排水の影響
  • 大雨後の濁水と藻類群体の変化
  • 護岸改修による基質の変化と、それに続く数年単位の遷移
  • 季節風や雪解け水が水量を大きく動かす時期の記録

関連プロジェクトの広がり

坂井が取り組む一連の地域プロジェクトには、新潟水の記憶プロジェクト以外にもいくつかの活動があります。水と緑に関わるテーマを扱う長年のフィールドワークや、商店街を舞台にした表現活動などがあり、いずれも現場の観察を出発点としています。

それぞれのプロジェクトは対象とするスケールやコミュニティの規模が異なりますが、観察と描画という基本姿勢は共通しています。活動全体を横断することで、新潟という地域の水や緑の記憶を多角的に記録できると考えています。

手法と成果物の特徴

観点 新潟水の記憶プロジェクト 商店街での藻類観察
主な対象 河川・用水路の石 建物外壁や塀
水の供給 流水・飛沫 雨水・結露
観察周期 季節ごと複数回 月単位不定期
主な成果物 スケッチ帳と年報 個別スケッチと展示

両者の観察を比較すると、同じ藻類を扱うなかでも、現場特有の水文環境が表現に強く反映されていることが分かります。新潟水の記憶プロジェクトでは流水の動きに由来する群体の並びや流線的な形態が重視されるのに対し、街中の壁面では乾燥と湿潤の繰り返しに対応する耐久的な構造が観察されます。商店街や建物の外壁に生える藻類を扱った 壁面の藻類スケッチ は、まさに対照軸となる取り組みです。

これからの展望と地域との関わり

今後はこれまでのスケッチ群を地域の市民ギャラリーや学校現場で公開し、水辺の小さな生命に目を向ける機会を広げる予定です。子どもたちとのワークショップでは、ルーペと鉛筆を持っていれば始められる観察と描画の体験を提供し、五感で水環境に触れる時間を共有しています。関心のある方は、展示の期間や参加可能なプログラムについて気軽にお問い合わせください。

坂井は水辺の小さな存在に名前をつけ、絵で残すという行為そのものが、地域の水文化を次世代へ継承する手段になると確信しています。プロジェクトの記録は今後も現地での観察と表現を通じて少しずつ積み上げられ、川と街の両方をフィールドとした表現の幅を広げていきます。新潟水の記憶プロジェクトの続報や関連イベントの案内は、坂井晃一の公式サイトで随時更新されていきますので、最新情報をご確認ください。