築数十年の床板から取り出した節が紡ぐコラージュの世界
新潟県内外の木造家屋が建替えや解体の時期を迎え、長年住み継がれてきた床板が姿を消すケースが増えています。作家・阪尾功一はそのような現場で、職人や地域の人々と協働しながら床板を一本ずつ丁寧にはがし、目に見える節や年輪、木目の凹凸を採取してきました。
取り出した節は、それ自身が数十年の生活の痕跡を閉じ込めた小さな器官のような存在です。家族が集った食卓の下、畳を敷き直した朝、子供の足音が響いた夜——。そうした時間を吸ってきた木のかたまりを、作家は新たな画面構成の核としてコラージュに組み込みます。作品群は Otanokakera と名付けられたシリーズに連なる断片として提示されます。
節という器官に刻まれた時間の痕跡
節とは、枝が幹に入り込んだ部分にできる木の組織です。家の床板として長いあいだ人の重みを支え続けてきた節には、年輪のゆがみだけでなく、変色、小さなひび、塗装の層が折り重なっています。作家はそうした一つひとつの表情を時間の指紋と呼び、作品の中で節どうしを隣接させることで、異なる住まいの歴史を同一の平面に重ね合わせます。
一目で節の由来を断定することは難しいものの、よく観察すると、どの節がどの部屋の、どの時間帯に近かったかまで想像が膨らみます。たとえば台所の火の元に近い床板に含まれていた節は、煤を吸って黒みがかっていることがあります。そうした微妙な色の変化こそが、作品に深みを与える要素となっています。
解体現場での採取と作家の姿勢
作品の素材を得るため、作家は解体予定の現場に何度も足を運びます。所有者の承諾のもと、床板を丁寧に外し、傷んだ部分を避けながら節部分だけをノミや薄い鑿で取り出します。作業は決して急がれません。木材の繊維方向に刃を沿わせ、節そのものが割れないよう注意深く力を入れていきます。
現場で収集した節は、湿度や温度を管理した作業場でさらに選別されます。形の整った節、絵になる節、組み合わせで物語を誘う節——。作家自身が「会話できる素材」だけを選び取り、構図を考える最初の段階で素材と対話を重ねます。素材ありきの発想が、結果として計画的すぎない自然な画面構成を生んでいます。
コラージュという表現形式の必然性
切り出した節を単純に並べるのではなく、コラージュという形式を採用する理由は、節単体では語りきれない物語を複数の断片の重なりによって立ち上がらせたいからです。下地には和紙や古布、時には解体現場で出た他の木材の端材も用いられます。素材同士の境界は意図的に曖昧にされ、節の輪郭が背景に溶け出すことで、記憶と忘却のあわいを見る人の身体に引き寄せます。
コラージュのもう一つの利点は、平面であることです。持ち帰り、展示し、後世に残すことが比較的容易になります。作家は展覧会やワークショップで、節と背景の間に参加者が小さな紙片を挟み込む参加型の作品も手がけており、観る側もまた記憶の担い手となる仕組みをつくっています。
Town Memory Project との響き合い
この床板の節を用いた試みは、作家が長年取り組んでいる Town Memory Project と深く呼応しています。同プロジェクトでは商店街のシャッターや古い看板、住宅の建具といった、地域の記憶を宿す事物を収集し再構成してきました。床板の節はその系譜に連なる新たな素材であり、個人宅の記憶を地域の集合的な記憶に接続する結節点としての役割が期待されます。
新潟を主なフィールドとする活動では、水と暮らしの関わりを探る Niigata Water Memory Project や、室内に植物を配置する Midori no Heya Project との連動も視野に入っています。節という最小単位の記憶が、やがて部屋や町全体を語るパズルのピースとなる——。そのような構想が、作家の中で静かに進行しています。
住まいの記憶を未来へ残すために
木造家屋の新築やリフォームが繰り返される現代では、かつて当たり前だった節のある床板を目にする機会が減りつつあります。節の存在は、自然素材の不均一さをそのまま受け入れる日本の住文化の証でもあります。作家は自身の作品を通じて、無名の節に宿る物語に光を当て、人々がもう一度自分の足元にある木の表情に目を向けるきっかけを提供しています。
展覧会では完成作品だけでなく、採取の過程を撮影したドキュメンタリー映像や、作業の中で生まれた試作も併せて公開されます。素材が作品になるまでの道筋を辿ることで、鑑賞者は単なる「見る」体験ではなく、素材と時間の関係性を身体で感じ取ることが可能です。
作品と素材との対話を深めるために
- 節の色や艶の違いに注目すると、その床板が使われていた部屋の用途や生活時間帯が見えてきます。
- 背景に使われている和紙や布の質感を意識すると、記憶が重なり合う感覚が得やすくなります。
- 展示会場で複数の節が並ぶ箇所を比較すると、異なる住まいの時間が同じ平面で出会う瞬間を楽しめます。
- ドキュメンタリー映像のコーナーでは採取現場の音や職人の手元の動きを併せて観察すると、素材への理解が深まります。
作家・阪尾功一の活動は、解体される木造家屋という一時代の終わりに静かに寄り添いながら、そこから取り出した節を次の時代へ手渡す行為そのものです。ワークショップや展示会の最新情報は公式サイトや SNS で随時発信されています。床板の節が紡ぐ新たな物語を、ぜひ会場で確かめてみてください。