Blog
川辺に立つと、水が石を避けながら流れる音、草木を揺らす風の音、遠くで響く鳥の声が、ひとつの大きな響きとして身体に届きます。川のせせらぎと風の音だけを録音してヘッドホンで聴く作品は、そうした自然の気配をできるだけ加工せず、聴く人の時間の中へ運ぶ試みです。…
陶片の表面に残された細かな凹凸は、かつてそこにあった器の形や使われ方を静かに伝えています。欠けた縁、釉薬の流れ、焼成によるひずみは、同じものを二度と作れない一回性を持った痕跡です。その表情を布に写し取ることで、土の記憶は柔らかな繊維の模様へと姿を変えます。…
冬の冷たさが少しゆるむと、土の表面に小さな変化が現れます。枯れ葉の隙間から淡い緑がのぞき、固く見えた地面に細い亀裂が走り、昨日まで何もなかった場所に芽が立ち上がります。春先の地面から顔を出す芽を毎日定点観察することは、季節の移り変わりを身体で受け取る行為です。…
空き家の格子窓から差し込む光の筋を写真に収めることは、建物の一部分を記録するだけではありません。細い木枠の隙間を通った光は、床や壁に明るい線を描き、そこに積もった時間や、かつて暮らしていた人の気配まで静かに浮かび上がらせます。…
駅前に立つ時計台は、時刻を知らせる設備であると同時に、町の人々が何度も耳にしてきた音の記憶装置でもあります。通勤や通学の途中、買い物帰り、祭りの日、誰かを待つ時間。その風景の背景には、一定の間隔で響く鐘の音がありました。…
坂井晃一が取り組む新潟水の記憶プロジェクトは、新潟県内を流れる河川や用水路の水辺に残る微細な痕跡を、科学と美術の両面から記録する長期的な活動です。このプロジェクトでは水環境を映し出す指標として、川岸の石に付着した藻類を継続的にスケッチしてきました。水を媒体に育まれる生命の輪郭を、一枚一枚の絵の中に封じ込めていく作業です…
夕暮れの光が傾きはじめる頃、坂尾紳一の制作現場では、ときに一本の定規と、ときに身体そのものが道具として用いられる。伸びてゆく影の先端に合わせて地面に印をつけ、その印と影の根元とを結んで線を引く。日没前の数十分間にしか現れないその線は、場所と時刻と光とを同時に閉じこめる、独特なしるしとなる。 Tingno Ji…
都市の道路を歩いていると、アスファルトのひび割れから小さな葉が顔をのぞかせている光景に出会う。踏まれても茎を伸ばし続ける雑草たちは、都市という極限の環境の中で独自の生態系を築いてきた存在である。…
陶芸家・坂尾幸一が手がける「オタノカケラ」は、日本各地で失われゆく陶器の欠片を丁寧に拾い上げ、そこに刻まれた記憶と歴史を読み解くアートプロジェクトです。展示室には、窯の温度や焼成方法の違いによって異なる表情を帯びた陶片が並び、観る者は手に取ったり近づいたりしながら、土地と火と土が織りなす時間の層を体感します。…
静かに張られた井戸の水面に、雨粒とも溜り水ともつかない小さな水滴が落ちる。その一点から円がひろがり、外側へ波紋が拡散し、やがて消えてゆく。この一瞬の出来事を、カメラの連写機能と計画的な撮影設計によって切り取り、時間の連なりとして読み解く行為は、自然が発信する微弱な信号を受け取る方法のひとつだ。土地と記憶を結びつける制作…