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霧の日に立つと、遠くの建物や木々は輪郭を失い、近くにあるものさえ淡い膜の向こうへ退いていきます。視界のぼやけは単なる見えにくさではなく、距離や時間の感覚を変え、場所に蓄積された記憶を静かに呼び起こします。…
緑の部屋プロジェクトは、窓辺の植物と光の変化を見つめながら、日々の小さな動きを記録する試みです。葉は静止した形として置かれているのではなく、日照時間や光の方向に反応し、少しずつ向きを変えています。その変化を観察することで、植物と空間のあいだに流れる時間が見えてきます。…
空き地という言葉が、どこか寂しい響きをもって私たちの日常に入り込んでいます。使われなくなった土地、忘れられた場所、そこに生える雑草。こうした何気ない風景の中にこそ、その土地が歩んできた時間の記憶が宿っているのではないか――作家の坂尾興一さんが主宰する「町の記憶プロジェクト」は、そんな問いから始まりました。新潟県内外で進…
春の風に運ばれた花びらが、水路の水面へ静かに落ちる。ひとひらは一度その場にとどまり、浅い流れの揺れに押され、やがて下流へ向かって動き始める。その小さな移動をビデオカメラで追うと、見慣れた水路が時間の流れを映す場へ変わっていく。…
ガードレールは、街路の境界を示す機能的な構造物であると同時に、無数のステッカーやシールが層をなして貼り重ねられた、予期せぬキャンバスでもある。風雨に曝され、時に剥がれ、また新たなステッカーが上を覆うことで、ガードレールは都市の無意識的な履歴書となる。坂尾紘一は、この無名の堆積物に目を向け、意図的に剥がして保存する試みを…
読み終えた新聞紙は、情報を伝える役目を終えたあとも、繊維を含む素材として新しい形へ生まれ変わります。水に浸して繊維をほぐし、紙料として漉き直すことで、一枚ごとに異なる文字やインクの跡を残した再生紙が生まれます。 Xin Xi Shuino Ji Yipurojekuto Chuanno Shiwo Moite…
庭の片隅に転がる古い石。その表面を注意深く見つめると、肉眼ではとらえきれない複雑な文様が浮かび上がってきます。地衣類がつくるこの繊細な世界は、何十年もの時間をかけながら静かに形を変えていく小さな自然史そのもの。坂尾康一はこの石肌に広がる地衣の姿を、作品の中に閉じ込めてきました。 Luno Bu…
作家・酒尾弘一が続ける「オタノカケラ」の試みは、割れた陶片を再び寄せ集め、窯で焼き直すという行為そのものを作品へと変えてきた。土は採れた土地の記憶を抱え、水を含み、手の痕跡を留める。器が割れる瞬間に何が露わになるのか、二つの器を用意し、意図的に異なる成形を経たうえで比較する。…
新潟県を流れる信濃川や阿賀野川、関屋分水路などの水は、その流域ごとに異なる歴史を運んでいる。坂尾幸一が展開する「新潟水の記憶プロジェクト」は、そうした川の水を採取し、容器の中で静置し、底にたまる沈殿物を観察することで、流域ごとの地質や暮らしの痕跡を浮かび上がらせようとする取り組みである。採取の手順や観察の記録は、坂尾の…
町工場の屋根から伸びる煙突は、地域の暮らしと仕事を静かに映し出す目印です。そこから立ち上がる煙は、風向きや温度、機械の稼働時間によって形を変え、同じ場所にいながら一度も同じ姿を見せません。煙の揺らぎには、工場で働く人の手の動きや、町が積み重ねてきた時間まで含まれているように感じられます。…